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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)5589号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高谷清一郎の上告趣意は、量刑不当の主張であり、弁護人福地劔吉の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張を出でないものであって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかし、職権をもって調査すると、原判決の認容した第一審判決の判示第一の事実は、被告人が、振出人欄を白地とした金額九万五千円の為替手形一通につき判示のごとき引受のあった旨の記載をなして手形の偽造をしたというのである。そして、刑法一六二条二項にいわゆる「虚偽ノ記入」とは、既成の有価証券に対すると否とを問わず(すなわち手形にあっては先ず振出行為があると否とを問わず)、有価証券に真実に反する記載をするすべての行為を指すものであって、手形にあっては基本的な振出行為を除いたいわゆる附属的手形行為の偽造等をいうものと解するを相当とする。されば、原判決が被告人の前記所為に対し第一審判決と同じく刑法一六二条一項を適用したのは違法であるといわなければならない。しかし、同条一項と二項とは、その罪質も法定刑も同じであるから、原判決の右違法は、判決に影響を及ぼすものではなくこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

よって、刑訴四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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